Prayer


 蒼みを帯びた玉魄が静かに下界を照らしていた。
 光の加減か、それともここの地理的条件のせいなのか。誰かを彷彿とさせる
その輝きは、やけに神々しく巨大に見えた。
 その中を、俺は軽快に進んでいく——新たな獲物を追い求めて。
 なあ。
 悪魔を掃討するには、実に好い日和だと思わないか。


「どうした、もう終わりか?」
 微かな気配へ向かって嘯く
 全てが水底に沈んだような蒼白い闇の中、点々と連なる紅い光が何かを渇望
するかのように瞬いていた。
 街灯一つない廃墟を照らすそれは、月齢十五。
 こんな日は色々と落ち着かない。
 隠しても無駄だった。普段は抑え込んでいる様々な慾が、手を替え品を替え
顔を覗かせる。


 言葉にすればたったの数語、簡単な事だ。
 時々は、我慢しているのが莫迦らしくなってくる。
 いっその事、と思わなかったと言ったら嘘になる。
 だが、もう二度と失いたくないのだ——どんな意味でも。



 出かける時、いつも通りに笑えただろうか。



「遊び足りねぇな」
 いくら月齢のせいにするにしても、どうかしている。
 だから、踏みつけ、粉々にした望みの代わりに俺は悪魔を狩る。
 苦痛に吼え哮る感情を、元通り抑え込めるようになるまで。
「お前らもそうだろう?」
 皎々と照らし出される月光に全身を暴かれ身の置きどころもなく、滾る血を
持て余し、闇の中、目ばかりを光らせている悪魔


 揺らめく光点が、不意に瓦礫の隙間から飛び上がった。
 人を求め、その生命を啜る事に快を見出した緋色の瞳。
 振り抜いた刀身が月の光を浴び、鋭く蒼い軌跡を描く。
 まだいけるだろう?
 楽しませてくれるんだろう?
 隠れていないで、こっちにこいよ。
 熱く鋭い鋼の抱擁をくれてやるぜ。
 魂も消し飛ぶ程の強烈な奴を、な。


 周囲に散らばる血色の結晶を蹴飛ばしながら、最後の悪魔を俺は狩った。
「あーあ、避け損なったぜ」
 いつもより気が昂っていたせいか、些か乱暴に振り回した刃から滴った悪魔
の体液をしこたまかぶっていた。
 本音を言うと、まだ暴れ足りない。
 けれど、これ以上悪魔を屠っていても鎮められそうにない事も解っていた。
そもそも、この近辺には斃すべき悪魔も残っていない。
 帰ろうか。
 騒々しく帰宅し、いつも通りに兄貴の邪魔をして拳骨の一発でも貰えば多分
大丈夫だ。
 身裡で燃え盛る血も、かぶってしまった悪魔の体液ごと流せば、少しは落ち
着く。酒にでもつき合って貰えば、元通りの日常が戻ってくる筈だ。
 ……そうでなければ、困る。



 見上げた夜空には、先刻と変わらぬ輝きがあった。




Plastinationの碧さん作、月光浴に触発され、思わず三次創作。
向こうのお兄ちゃんもツンデレだが、うちも負けていない(笑)。
表裏一体で初めて全容が解るなど、寧ろ、管理人がツンデレというべきか。

要らんかも知れないが、碧さんへ捧ぐ。




《戻》
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